公開日:2019.06.14
【青嵐俳談】森川大和選
俳句甲子園松山大会は明後日。どんな佳句に出合えるか。今年の兼題の「風光る」は開放感の生かし方。「蝶」は詠み尽くされた季語。独自性が必要。「ぶらんこ」は季感が出せるか。「カーネーション」は母の日の連想を生かすか、超えるか。季語には守備範囲とも呼ぶべき個性がある。本意を生かし類想類句を脱出できるか。
【天】
緑陰や素数はどこまでも清ら神奈川 ぐ
前立腺肥大に満ちてくる緑陰神奈川 ぐ
数字の存在感を極限した素数が「清ら」だという感性が素敵だ。分かる。尖ってもいるが、伸びやかですべらかだ。生々しい。緑陰では数が実存するかもしれない。後者の配合も怪しく妙。症状を静かに癒やしている。緑陰の非日常性を生かした2句だった。
【地】
卯の花を思い出せないひとと見る大阪 伊藤
仕送りの苺すこしだけぬるい愛媛大 小泉柚乃
思い出せないものが「卯の花」ならば、淡い好意の言葉になるが、「何もかも」思い出せないのならば家族詠に転じる。後者の方が好きだ。2句目は後半の平仮名表記を評価したい。冷蔵庫で冷やしても、やはりどこか「ぬるい」のだ。郷愁と安心の深みこそ成長の証。
【人】
初夏の片肺に精霊のゐる松山東高 吉田真文
水槽の泡の途切れて五月晴松山東高 吉田真文
東京の臍は無機質若葉風 松山東高 吉田真文
なぜ精霊は両肺に宿らないのか。なぜ五月晴の空に泡沫の残像を重ねるのか。なぜ若葉風を都心の迷路へ流し込むのか。この作者に底流する屈折が詩である。
【入選】
クレーンは街を動かず流れ星大阪 大学
髪洗ふ爪より夜の溢れ出す松山 若狭昭宏
ひきがえる畳の匂いしているか兵庫 内橋可奈子
蜘蛛の巣に蜘蛛の集めてきた音が同 藤田俊
五月雨は大樹の跡を埋めるべく松山東高 武田歩
バナナの葉茂りし丘の陶芸家同 山内那南
ぺしやんこの炎昼のコカ・コーラ缶今治 犬星星人
夏シャツや毛の生えているサイもいる京都 青海也緒
早苗田を「で」の一言で刈る上司愛知 雷紋
ネットプリントの期限が切れていた立夏松山 松浦麗久
リモコンに悲しみのボタンよ白夜同 みなつ
河童忌のバリウム毒とはこのやうな同 奈月
白シャツとまた白シャツとすれ違う同 松本美恵子
黒揚羽ただ残像を置いてある松野 川嶋健佑
初蝶が旗日の旗の真似をする済美平成 宇田陸
【嵐を呼ぶ一句】
母の日に贈る手摘みはエメラルド松野 岸本有希
「は」は「の」がよい。「手摘み」なので「エメラルド」は商品名。ミニトマトとオクラの2種類が流通しているようだ。いずれにせよ夏野菜なので早摘み。初物の縁起の良さもある。一果一果の透明感が効いた。