公開日:2018.12.28
【青嵐俳談】神野紗希選
俳句で人と違う書き方をするとき、ドヤ顔は見せたくない。どうだこんなの作ったぞ、すごいだろう、という心が先頭に出るのは、単なる言葉の遊びの域だ。でも目新しい方法が必然性を伴う句は、新しみを推進力に、そう書かざるを得ない切実をはらんで、人の心を打つ。八幡浜出身の俳人・富沢赤黄男は、後年一字空けに凝った。〈黒い手が でてきて 植物 をなでる〉〈ガラスのコップ 沙漠をよぎる影〉、一字空けが、植物やコップや影、事物の現前する生々しさを生む。
【天】
凍蝶 漂う 白地図にある霊峰松野 川嶋健佑
一字空けが空白を生み、言葉が切れ切れにひびく。意味をそぎ落とした白地図の上に、漂うのは凍蝶か、それとも霊峰か。沈黙の冬の緊張感の中、いずれも触れがたき神聖さをまとう。同時作〈ちぎり絵のちぎられすぎて雲は冬〉も、風に薄れゆく雲をちぎり絵に重ねた。紙をちぎる指先の感覚が、世界と私をつなぐ。
【地】
そもそもはみんな星屑屠蘇祝ふ今治 犬星星人
そもそも論に立ち返りたくなるのがいかにも正月。でも「みんな星屑」なんて素敵なことをいわれたら、お屠蘇を頂かなくても酔っちゃうかも。そうか、私たち星屑なのか。来年もそれぞれに、輝いていこう。
【人】
やはらかきエコーを受くる海豚かな今治 立志
百貨店壁に化石や春愁大阪 大学
立志さんの句、エコーを通して、イルカの肌の感触が想起される。「やはらかき」をエコーにかけたのが巧み。大学さんの句、歴史ある百貨店だろう。壁の化石に触れた冷たさ、生きものが石になるまでの時間のはるけさなどが、自然と愁いを駆り立てる。
【入選】
岩に罅祠にも罅冬ぬくし広島 須賀風車
電灯を視力検査と思ふ冬松山大 脇坂拓海
ゴッホの片耳みたいな冬の月松山西中等 岡崎唯
電子音豊かな街の冬ぬくし長崎大 塩谷人秀
窓枠に朝のままいて冬の蝶松山東高 山内那南
降誕祭スーツの中の定期券同 武田歩
冬あたたか目の大きくて目の悪い東京外大 中矢温
冬の雲残りのギガを確認す松山 みなつ
銀ぎつね知らぬ子を抱く知らぬ嫁松山 若狭昭宏
寒菫三角関数解けません大洲高 岡田真巳
小春日や君の幸せになりたいKTC松山 坂本梨帆
【嵐を呼ぶ一句】
人生の真ん中あたり年暮るる京都 青海也緒
青春や老いは詩になるが、壮年中年は微妙。そのトホホ感がいい。時の経過を意識する季語「年暮るる」だと、人生の経過との連想が近すぎる。この瞬間に眼前にあるもの(冬の蜂? 鮟鱇鍋? 花八手?)のほうが「人生の真ん中」を生きるリアルも加わるはず。