朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2026.10.30

[青嵐俳談]神野紗希選

 とってつけるように置くのではなく、一句の他の言葉と連動し増幅するように季語を選ぶことで、言葉に現実の重量が宿り、イメージがくきやかに立つ。

 【天】

ベーコンの自ずと濡れて霜の蛇岡山 岩橋のり輔

 中七の描写に驚かされ頷いた。ベーコンのしっとりとした表面や、生きていた肉の存在の重量が伝わる。さらに、霜の冷たさの中でぬらりとうごめく蛇の肉体が、ベーコンの質感と重なり合ってずしりと迫る。

 【地】

夏銀河すべて選択と貼り付け済美平成   月御幸

色変へぬ松網膜のきよらなる東京  加藤右馬

 御幸さん、この世界はすべて、夏銀河すら、コピー&ペーストで出来ているのかも。選び取られ、複製されてゆく中で、唯一無二の輝きは存在するのか。諦めつつも問いかける。右馬さん、深秋の松の緑の清らかさを、網膜を介して澄ませた。季語が息を吹き返す。

 【人】

悪政や弁当の鮭薄つぺら埼玉  伊藤映雪

LIFE IS PARTYくしやみにまぶた明るくて鶯谷高  川崎雅怜

 映雪さん、鮭も薄く切られてステルス値上げ、国民の暮らしをなおざりにする政治は、やはり悪だ。弁当という生活の具象に、社会の問題を見出した。雅怜さん、人生がパーティーのような明るい幻だとしたら。くしゃみでハッと我に返る現実感。くしゃみして目をつむるとき、外界の明るさがぎゅっと弾ける。

 【入選】

珈琲を買ふ秋雨のとき用の東温   堀雄貴

白竜の鱗やはらか秋の水千葉  弥栄弐庫

月面に打ち捨てられし便器かな東京  長田志貫

無花果や死海文書の隠し文字京都 ジン・ケンジ

かみさまは左利きらし帰り花静岡 海沢ひかり

雲白しプールへ秋の雨混ざる松山  安東直之

フレネミーだから糸瓜を褒めれちゃう大阪   未来羽

秋深くカヌレの溝に眠りけり東京  桜鯛みわ

澄む秋や正論探す反省会立命館大   乾岳人

色鳥も左右非対称よ人も福岡  手嶋子犬

秋麗の地をモルックの棒が跳ね松山   広瀬康

鶺鴒それはわたしが選んだ苦しみ八幡浜  福田春乃

心臓を抜かれてみたし曼珠沙華東京   浅野輝

無花果のジャムと抜け出すこんな町鹿児島   佐藤橙

雨月なり手毬麩入れて潮汁松山  小林浮草

十六夜やたまごっち死ぬときの音東京  小林大晟

人類が亡びてやつと蚯蚓鳴く熊本 夏風かをる

「オーライ」と叫ぶバイトや星月夜兵庫    翔龍

泣けた日の金木犀よ風は凪ぐ大洲  坂本梨帆

ゴッホの筆致で鰯の群が照る早稲田大  奥田羊歩

 【嵐を呼ぶ一句】

「しかない」は、かなしい。この道さわやか埼玉  東沖和季

 「~しかない」という限定の言葉を、入れ替えると「かなしい」に。有限であることは、たしかに、かなしさと親しい。とはいえ目前の「この」道は秋の清澄に満ちる。「しかない」を「かなしい」と思いながらも生きていく、諦念にも決意にも似た静かな読後。

最新の青嵐俳談

▲