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青嵐俳談

公開日:2026.10.02

[青嵐俳談]神野紗希選

 〈残るあぢさゐこれからも見て暮す〉のはみ出し、〈玉蜀黍一粒育ちおくれけり〉の足りなさ。岩田奎の第二句集『敵』から引いた。定型に収まらない世界を定型に収め、認知できる世界の拡充を図る。

 【天】

夏シャツに皺わたしたちは飛べなくても静岡  東田早宵

夏シャツは翼じゃないし、皺も寄ってるし。でも、裾を風にはためかせ、光へ向き直る。「わたしたち」であることの連帯の一歩に励まされる。同時作〈深淵はわたしに届くまで銀河〉の深淵の形象化も芯に迫る。淵も河も水の喩、世界は常に流動しているのだ。

 【地】

窓あれば飛びたくなつて穴惑兵庫  石村まい

果物の底から傷む穴惑ひ専修大  野村直輝

 さまよう秋の蛇を詠んだ二句。まいさん、窓から飛んでも、蛇にも人間にも翼はない。それでも窓の光に惹かれるほどに、室内は、土中は昏い。直輝さん、置かれた果物をひょいと持ち上げると、底から腐りはじめていること、ある。底から忍び寄る翳り。

 【人】

秋果へと目抜き通りを戻るとこ松山   広瀬康

I was born ゆふだちの粒光る岐阜  川崎雅怜

 康さん、さっき見たフルーツを、やっぱり買おうと引き返す。うきうきする気持ちが「とこ」の言い止しに弾む。雅怜さん、吉野弘の詩「I was born」を思い出す。受動態の生だとしても、夕立の粒の光を見出せる。それは、儚くも確かな、今ここにある光。

 【入選】

ゑのこ草記紀に不貞の神あまた北海道  柏木七歩

現世平等鹿にシャツ齧られて八幡浜  福田春乃

九月十一日乱暴なバスに寝る米国   爪太郎

クッキーは園児の通貨秋の草大阪   ゲンジ

大試験まへ洗濯のよくすすむ福岡   宇鷹田

草の花アリクイ両手拡げたる東京  長田志貫

歯ブラシを咥えて天窓の月見愛知   柊琴乃

竜胆のそよぐ朝へ記事は咲く大洲  坂本梨帆

透けてゆく夕がほの実や味噌を溶く松山  小林浮草

セブンスヘブン梨がもらわれていく同 板尾奈々美

上下違うジャージで歩く夏銀河大阪   未来羽

たらちねの黒ずみ誇れ夜の秋長野   沢胡桃

原発やプリンの上に築く城松野 川嶋ぱんだ

煮凝や釦の冷えを抱かれて知る愛媛大  七瀬悠火

アイスクリーム癖っ毛を飼い慣らす済美平成   れくす

碇星旅は港で終わりけり愛知   柴田健

荒原の大樹の骸星月夜大阪   国領柩

目ん玉の白身ぐつぐつ原爆忌福岡  手嶋子犬

玉虫やすうつと大気圏の層神奈川   大地緑

ドーナツを半分に割る秋の夜鹿児島   佐藤橙

 【嵐を呼ぶ一句】

死票二七〇〇万や鰯雲東温   堀雄貴

 二月の衆院選、小選挙区の死票は2700万票近く、全体の48%に上ったという。果たして民意を正しく反映する選挙制度といえるか。鰯雲のひとひらずつが、届かなかった意志のように、茫漠と空を漂う。

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