公開日:2026.09.25
[青嵐俳談]森川大和選
〈ジャージインスカート蝙蝠と立ち漕ぎ〉は第29回俳句甲子園全国大会で神野紗希選優秀賞に輝いた川口心実さんの一句。この句を出す心意気。取る心意気。「大好きな人から、こんな大事な賞をいただけたことは、もう本当に嬉しくて」と受賞の喜びを語る涙の中から「たぶん走馬灯にも出る」と言い切った驚きに、感動する会場が、思わず温かな笑声をもらした。
【天】
空ばかりなり芋虫の走馬灯大阪 葉村直
井伏鱒二を思わせる。芋虫にも走馬灯があるというユーモア。短い記憶に一期の濃度。蝶になれぬまま嘴に取り押さえられ、遥か上空まで最後の旅をするペーソス。哀愁の空が若山牧水の青さを寄せる。
【地】
ピザとケーキ切り分けて真夏の星図静岡 東田早宵
若き日の祝いの夏の夜の闇を今も見つめる。黙が星寄す。青雲の志を抱く十代の純度。この句もどこか走馬灯めく。一等星や星団の光を見ては、目を星座の主役から脇役へ広げ、暗がりを銀河の星間の艶に加え、闇の濃淡にかけがえのなさを思うようになる。
【人】
来生は銀河のうをとして棲まふ大阪 十八公
「来生(らいしょう)」は来世の意。「荘子』」逍遥遊篇に登場する魚の鯤(こん)は数千里の大きさ。それが変化した鳥の鵬(ほう)は飛べば三万里。壺中には仙境の天。「銀河のうを」の豈に在らざらんや。
【入選】
泣くほどにひびく心臓草の花鶯谷高 川崎雅怜
蜩やロダンの門の向うから東京 長田志貫
ひらがなのひのやうな子の成人祭福岡 手嶋子犬
冷まじや骨になるまで子でありし東京 灰島りんこ
野山色づくやばあやの瘤を揉む沖縄 成瀬源三
夏の雲ひとつ残して手を振れり愛媛大 飯本真矢
秋気なる手帳に自己注射とある日済美平成 川口心実
鶏頭や影美しき滑り台早稲田大 奥田羊歩
三日月や鉛筆の香の父の指東温 堀雄貴
唐黍や先祖代々虫歯ゼロ大阪 未来羽
サルビアに歌わせるならカンツォーネ同 高遠みかみ
駅ビルの硝子無月のダンサーは三重 多々良海月
夜顔のなべてしづかな怒りなり兵庫 石村まい
除染土の入る市庁舎の花壇かな埼玉 伊藤映雪
罪は手の産物濁り出した桃千葉 平良嘉列乙
ハモネロに蹄の残る夜長かな京都 ジン・ケンジ
パパゲーノ秋の陽ざしはどうですか大洲 坂本梨帆
星月夜ゲノム配列解かれゆく愛知 唐沢うに
蝙蝠や手取り十万以下の生八幡浜 福田春乃
稲穂波金髪ロングなびかせて今治 京の彩
九月一日三回曲がり元の道静岡 海沢ひかり
【嵐を呼ぶ一句】
停電酷暑車中泊熊本 夏風かをる
被災直後の厳酷な忍耐を思う。ライフラインの揃わぬまま、真夏の車中泊で体調を守る困難さ。この句は十二音の作ではなくて、「停電」と「酷暑」、「酷暑」と「車中泊」の間に辛苦、悲哀、憤まんの韻を封じている。




