公開日:2025.02.28
[青嵐俳談]神野紗希選
友人はカリフラワーのポタージュを「緑」と言い、緑のセーターを「茶色」だと言う。色覚も、人により異なる。私の見えているものが絶対ではないという不確かさから、世界を認識し、書き始めたい。
【天】
水晶へ旋回したる花吹雪愛知 紅紫あやめ
はるかなるいるかのこゑとゆきやなぎ東京 池田宏陸
あやめさん、水晶が透明な座標となり、花吹雪の躍動を束ねた。「旋回」に花吹雪の塊の流れが見える。宏陸さん、イルカと雪柳が出会うフレッシュな詩のしぶき。弾かれた光が「はるかなる」空間に満ちる。同時作〈天国に海なかりけり花筏〉、奇想を季語の配合が実体化した。天国に海がないなら花筏の行く先は?
【地】
水仙の死角にて血を洗いけり秋田 吉行直人
置き配の香典返し冬菫大阪 電柱
直人さん、擦りむいた傷か、事件の現場か。清らかな水仙に見えないところで、血は流れ、隠される。電柱さん、香典返しが置き配ということも日常では充分あり得る。ぽつんと置かれた小包に、ふとあらためて喪失が思われ、その寂しさに冬菫が優しく添う。
【人】
枕投げみたいに愛の日を過ごす大阪 未来羽
合宿や修学旅行の夜、親しい仲間で興じる枕投げ。バレンタインデーも、恋愛から遠く、にぎやかな友情の時間を過ごしているか。新鮮かつ的確な比喩の力。
【入選】
睡眠に橋を渡して雪うさぎ静岡 東田早宵
充電器とほくて床のつめたくて同 酒井拓夢
冬月のガードレールに悼む人東京 桜鯛みわ
赦されるまで縄跳の中に居る神奈川 ギル
吐き出したガムの温度の春愁青森 夏野あゆね
滑り台最後がちよつと平らで冬京都大 水野不葎
雪の夜画集に長き髪ひとすじ愛知県立大 柊琴乃
AIの死者の未来の声雪間西予 えな
国試へとさりさり雪を踏みにけり名古屋大 磐田小
虹彩に映る逆さの草青む静岡 四條たんし
木星に行きたい理由蜆汁長野 里山子
乗り継ぎのための大陸ヒヤシンス東京科学大 長田志貫
眠剤をラムネの如く喰ひ雨水京都 佐野瑞季
蕗の薹仮病の電話上手くなり松山 石川穴空
蒲公英よ脆き青空を助けて神奈川 大地緑
AIに丁寧語なる君うらら大阪 家守らびすけ
薄氷や成長痛の子をさする静岡 海沢ひかり
春が来たサワークリームな僕にも大分大院 鶴田侑己
春泥の息にくもれるほど ひかり米国 爪太郎
【嵐を呼ぶ一句】
残業の終わりに滑子汁はだう新潟 酒井春棋
カリフラワーポタージュ遠くに愛がある東京農大 コンフィ
汁物も具や種類でイメージが大きく変わる。春棋さん、構文として「だう」の着地が楽しい。残業の終わりの疲れに、滑子汁もつるんと優しく。コンフィさん、カリフラワーの白さ甘さが、遠くの愛と呼び合う。