朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2024.03.22

[青嵐俳談]森川大和選

 庭に菜園を耕して3年目。濃紫の仏の座が畑の囲いや畝の谷に沿い、日に日に生えて、混み合っている。年に幾種か植えるうちに肥えてきた証拠。引っ張り出された新玉葱も子供も土まみれ。雨後の駘蕩。

 【天】

朧夜の脾臓へ続く地下通路和歌山  よしぴこ

 脾臓の機能は他の臓器等でも代替可能といわれるが、医学未踏の神秘がまだ隠されているかもしれない。句は不思議な浪漫が根底にある。朧夜の一本道を行けば我を失い、虚構を歩き、面妖な展開に翻弄される。

 【地】

声帯をひからせている春の川松山  近藤幽慶

 まだ少し冷たい風に、佇み、何かを思い出し、時に本気で歌いたくなる。歌い、気分が乗ってくるや、徒然に川面を滑る春光が、一心に震える声帯を射す。

 【人】

解決は乙女椿に任せなさい長野   里山子

 乙女椿には目を奪われる。花芯が閉じたままの宝珠咲きを経て、千重咲きへ開き収まる。淡いピンクの大輪は可憐ながら堂々と臆さぬ咲きぶりで頼もしい。願かけに「解決」を「任せ」たくなるも首肯。

 【入選】

赤ちゃんはみんな両利きミモザは黄千葉 海亀九衛門

水温む両生類の股ぐらに神奈川 沼野大統領

新社員どっちも寡黙かつ酒豪大阪   未来羽

首都高をちょっとほどいている朧千葉 平良嘉列乙

朧めく気がしてかくれんぼをやめる大阪 高遠みかみ

風船ひとつ母の母校のあたりから東工大  長田志貫

耕や校歌を思い出しながら神奈川   ぞんぬ

雪を吐く夜なら文字に成り代わる静岡  東田早宵

夜の水面まだ咲いてない桜咲く千葉  細川鮪目

妓王忌や骨となりなほ歌ふ鳥長野   藤雪陽

鳥帰る海洋散骨の風と神奈川 にゃじろう

卒業の雲どの嘘も覚えてる大阪   ゲンジ

少年は笛を絶やさず春一番洛南高    転々

蒲公英の世界征服ぶら下がる西予    えな

豚の背をつかみ宙舞ふ春の夢東京 武者小路敬妙洒脱篤

臍の緒の先を春満月の引く松山  若狭昭宏

あくびせる犬の龍めく春日かな学習院大 はんばぁぐ

春の川流るる障害者手帳東京農業大  コンフィ

ミモザ買ふマルシェの出口日曜日東京 阿部八富利

遠足の上から見れば乱れをり京都大   武田歩

誰を待つ綺麗なままで針供養弘前大 菅沼るあん

花虻や供養待ちたる雛の列静岡 桃園ユキチ

空き教室のランドルト環余寒松山    或人

 【嵐を呼ぶ一句】

喝采や民意は蝶を怒らしむ大阪   葉村直

 思考や想像を停止した喝采ならば、時に民意は分断を容認し、非情さを助長し、世の均衡を脅かす。そうなる前に蝶の「栩栩然(くくぜん)」とした存在意義に学び得ると、荘子ならば答えるだろうか。

最新の青嵐俳談