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青嵐俳談

公開日:2024.03.15

[青嵐俳談]神野紗希選

 コンビニのネットプリントを利用した同人誌「祈りと火」は戦争や社会を見つめる。西川火尖は〈冬の虹暮らしが見殺しを強いる〉と葛藤を詠み「目の前にあるものや日常が、虐殺や殺戮、あるいはそれらに対する抵抗と地続きであることを俳句にしてい」くと表明。星野いのりは「安全圏だからこそ大きな声を出さねばならない」と絞り出し、〈雪兎崩してきらきらのすべて〉とこの世界の輝きと儚さを詠んだ。

 【天】

ヤングケアラー誰がためのさくら餅神奈川  高田祥聖

 大人が担うべき家族の介護などのケアを引き受けるヤングケアラーの子どもたち。実態が見えず支援が届かない現状が続く。十代の子が桜餅を提げて帰る姿は一見微笑ましいが、ケアを強いられ苦境にある子かもしれない。誰がための桜餅、誰がための人生か。

 【地】

いくさから二十万年後のミモザ大阪 高遠みかみ

ふくらみの優しきボンド春の雨東京農大  コンフィ

 みかみさん、気の遠くなる数字に人類滅亡が匂う。眩しいミモザが地球の健やかさを物語る。コンフィさん、ボンドの描写が独自で的確。春雨の雫も優しい。

 【人】

春寒の図書除菌機の光かな青森 夏野あゆね

泡かぞへ海胆の口より海胆のうた岡山    ギル

 あゆねさん、すでに存在するこの潔癖さはディストピア的。春寒の季語と光への集約が、その違和感を身体に迫らせる。ギルさん、海胆からのぼる泡を海胆の歌だと捉えた。海胆にも心があると感じる愛だ。

 【入選】

春陰の放課後『手話入門』の君松山    或人

さもないと春霖に消えそうな恋日本航空高  光峯霏々

墓捨てた獣交んだ星買つた北海道 北野きのこ

空に罅あるやうに花ミモザかな東京  加藤右馬

水温むように なんだろ 思い出せない同  池田宏陸

白梅は星に形を託されて愛媛大    羅点

どのワニも同じ向きなり風光る兵庫 染井つぐみ

スタバにてもらうお疲れさまや蜂長野   里山子

サイネリア咲くまで生きてみようかな兵庫  西村柚紀

転職の勤務地は島春夕焼沖縄 南風の記憶

平手打つ春の情緒はアンビバレント新居浜  星加萌愛

鍵よ!重たき春光を撥ね返せ大阪   未来羽

アイドルの髪色無限春の空日本女子大  新谷桜子

ぶさかわな子猫と不細工なあたし京都  佐野瑞季

冴返る毒親の親も毒親専修大  野村直輝

浪人を終えて世界の麗けし弘前大  葛城イブ

卒業や絵の具の乾きたる机愛知 樹海ソース

争わず言葉分け合う朧月同 紅紫あやめ

 【嵐を呼ぶ一句】

スワイプで消されて春の水底へ京都 斎藤よひら

春や来世紐付けますか?はい・いいえ静岡  東田早宵

アカウント消して四月の顔となる埼玉  伊藤映雪

 新時代のツールがもたらす想像力は、今を生きる人だからこそ詠める。スマホを指でスワイプする感覚、マイナンバーなどの情報化社会、SNSの公私の使い分け。同時代の共感を核に飛躍する詩の可能性よ。

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