公開日:2023.11.17
[青嵐俳談]森川大和選
西条市丹原町「あいの風」俳句会の発足を慶びたい。結社とは違い、町おこしを目的とした有志の会。俳句ウォークの企画に参加した折は、背中に「丹原大好き」と書かれたオレンジ色のTシャツを着重ねて、西山興隆寺へ詣でる。参道の約三百段に心身が澄む。商店街には百年続くパン屋。レトロなシャンデリアは見物。
【天】
バイソンの万の頭蓋や星月夜茨城 眩む凡
中七に感性。この把握がバイソンの腥(なまぐさ)き疾駆を顕現させる。その背景のきよらなる星月夜。五七五のどれもが強く、しかし確かに共存し、虚構空間を完結させるがごとく、読者を雄大な自然の一ピースとして落とし込む。同時作〈後の月アルミホイルのごと匂ふ〉の感性は前衛的。〈流星の行方を追ふと簡易無線〉は真面目な物言いがSFめく俳味。
【地】
冬晴にかの落球を思ひけり東工大 長田志貫
「かの」の寡黙が奏功。胸を刺す切なさ。敗戦を自身の落球に因果付け、随分と反省してきたのだろう。前を向いて歩いているが、時に青空が胸を刺す。
【人】
触れてきたの鯨の夢の輪郭が大阪 未来羽
鯨か。闇深く、寒く、孤高。じっと見通す正眼が、こちらの夢の中を覗く。夢の輪郭が触れ合うと、両者の交歓する世界が生まれるのかもしれない。〈踏切で鯨と待っている夜空 神野紗希〉には友情さへも。
【入選】
稲妻のけはい深呼吸する肺に神奈川 高田祥聖
襟足が夜霧に濡れていく散歩愛媛大 岡田快維
画家やがて絵の中に棲む夜の秋福岡 星加扇
色鳥を容れたるドローネーの窓神奈川 いかちゃん
斯くて神へ捧げし孤独鳥兜静岡 東田早宵
葬送の金木犀を散らしきる松山 若狭昭宏
野営地も兵舎も夜長なのだろう千葉 平良嘉列乙
楽器箱担ぎ朝顔市に入る埼玉 伊藤映雪
冬晴や樹影のための白き壁松山 川又夕
やや寒や切り口にあるハサミの絵静岡 桃園ユキチ
赤ポスト人の秋思に食ひ飽きぬ東京 桜鯛みわ
休んでも教室思う九月尽京都共栄高 水谷敢
十二支にペガサスの在る小春かな長野 里山子
乳飲子に指を噛まれてゐる良夜弘前大 佐藤木霊
ピザ窯のレンガの冷めぬまま無月東京 コンフィ
焼藷の分け方愚痴の諌め方同 北欧小町
蘆刈の向かうに高き笑ひ声立教池袋高 述村鶏頭子
蚰蜒や配電盤の青ランプ京都共栄高 神田鯛石
【嵐を呼ぶ一句】
ハロウィーンのアップルパイを刺す八重歯愛知 紅紫あやめ
吸血鬼の長い付け歯が、今に刺さらんとするSNSの投稿か。ハロウィーンの句は色彩過多になりがちな分、「八重歯」以外の省略が潔い。デザートを食む日常的な風景に、吸血鬼が一瞬だけ錯視されてもよい。