公開日:2023.02.03
[青嵐俳談]神野紗希選
6歳の息子が絵画教室で描いて来た絵が、プロのようなタッチで驚く。先生の指導に従って、クレヨンを削り、その粉を指で擦りつけ色づけしたのだという。いつもの道具も技術的工夫で差が出る。言葉もまた。
【天】
ライオンに喰はれて銀河指す脊骨大阪 未来羽
情動の終わりのように雪の崖静岡 真冬峰
未来羽さん、ライオンに食い散らかされた獣。その骨は野ざらしのまま、遥かな銀河を指している。死が雄大な宇宙へ力強く昇華されてゆく。真冬峰さん、雪景色の崖の圧倒的な沈黙。激しい情動の果てに切り立つ雪の崖は、感情の熱を吸い取り、放心させる。
【地】
君を描くなら悴んだ指からだ松山 近藤幽慶
枯草にひかりの乳化風のたび東京 早田駒斗
幽慶さん、「だ」と断定する確信に、君の本質を理解したい体当たりの覚悟が噴き出す。悴んだ指に表れる君のいじらしさ、意志。駒斗さん、枯草と光が有機的に馴染んでゆく視界の滲みを「乳化」の語で言いとめた。風の「度」でも「旅」でもあるのだろう。
【人】
マフラーのままにフライドポテト食む茨城 五月ふみ
冬茜きれいに畳まれたジャージ愛媛大 貼紙はりコ
ふみさん、けだるい日常を切り取った。無意識のぼんやりを言語化すると、生の実感が呼び覚まされる。はりコさん、ラフなジャージをきちんと畳む、ささやかなギャップ。冬茜がほのかな切なさを引き出す。
【入選】
星置といふ店の名や冬林檎千葉 木野桂樹
梟のかうべに月の自転かな茨城 眩む凡
天狼や嗚咽をも数式としてノートルダム清心女子大 羽藤れいな
震災忌走り抜けてゆく黒い機関車伯方分校 守田慎之助
駆け出す子マフラーといふ翼得て三重 多々良海月
麦の芽や言葉が光る可能性西条 広瀬康
大寒や銃声のごとき鐘が鳴る愛媛大 羅点
永遠は二十年先聖五月松山 松浦麗久
石蹴りの石持ち帰る遠足子同 若狭昭宏
温泉街見下ろす蘇轍寒日和北海道 北野きのこ
氷紋を擦りつ人を待ちにけり済美平成 岡柳仙
結果論としてある今枯蓮神奈川 高田祥聖
ブランケット被せる楽に生きたいね同 にゃじろう
冬凪げる水平線は骨の色京都大 武田歩
水仙の海辺で出逢ふ第一話東京 桜鯛みわ
雪折や斬るやうに弾くバイオリン大阪大 葉村直
クリスマスローズ仄かに緑かな洛南高 心太
サインポール止めるのはオレ冬うらら秋田 吉行直人
【嵐を呼ぶ一句】
風花きれいジーンズのブックカバー名古屋大 磐田小
受験票よし一月の雨きれい東京 コンフィ
美的判断「きれい」を使う場合、常識的美から離れたものと詠むと意外性が生まれる。小さん、「風花きれい」は予想の範囲だが、ジーンズのブックカバーとの配合が新鮮。コンフィさん、一月の雨をきれいと思う感覚を、受験前という設定がさらに細分化した。