公開日:2022.07.01
[青嵐俳談]森川大和選
3年ぶりに俳句甲子園の地方大会が開催された。全国17地区。各地の最優秀句より。〈祖父の眼は透明な森シクラメン 今治西高伯方分校 馬場叶羽〉は中七の感性。〈霞から戻りし鳥の重さかな 高崎 金沢英明〉は下五の感性。〈スクラムの肩丘めくや朝霞 名古屋 服部亮太〉は諧謔。肩が遠山に連なる。〈風船に風船うつしあふ露店 立教池袋 赤松優〉は裸電球に映える夜の風船。今年は第25回大会。四半世紀の重み。
【天】
炎帝に足向けジェットコースター東京 山本先生
一回転の頂上部分。一瞬を切り取った図の滑稽味。ただし、娯楽に耽る人間の、神々への不遜が際立つ。皮肉にも、日常に忘れたものはないかと問うてくる。例えば知足安分。鳥よりも高く飛べる想像力。
【地】
説法を抜けて青田の風の中名古屋大 磐田小
羽を持つ虫か、小さな鳥か。人間の歩調では味わえぬスピード感。まるで輪廻。今生の最初に見る青田の清涼。または解脱。噴する御魂ならば、今生見納めの大地の真青。執着を滅却できそうな、句の没入感。
【人】
蝸牛消えて時間の中にゐる大阪 すいよう
公転はかなしい力かたつむり大阪大 葉村直
蝸牛の摩訶不思議。時間の表面を斬って、めくり上げると、ときにぽつぽつ、時にびっしり。後者は公転の妙。万蝸這いずり、大触覚に遠心力を引き留めて。
【入選】
炎天や拳銃めけるハイヒール茨城 眩む凡
はつなつのあくびからはじまる会話洛南高 蛍丸
猟虎がまた我を見てをり麦酒飲む九州大 長田志貫
六月の夜やアカペラの似合うイス松山 ツナみなつ
明日のこと明日悩むからマンゴー剥く中国 加良太知
赤茄子のケーキに締める0時過ぎ西予 えな
導火線めいてビニール紐盛夏佐賀 杢いう子
ゑんらいに光らぬ自転車の鉄環東京 早田駒斗
風鈴の下に子どものような影宮城 遠雷
簡単なおつかいのはずでした蛆東京 大黒とむとむ
ざらつきは遠くプールの底蹴りて松山 大助
小児科へ駆け込むパパのサンダルは岐阜 後藤麻衣子
明星をとらへ水番渇ききる茨城 秋さやか
雛罌粟の寂しき貯水タンクかな兵庫 染井つぐみ
三日月の泉の肌理となりにけり神奈川 いかちゃん
風死して三千年を標す鳥静岡 真冬峰
雨蛙硬くてやはらかな矜持西条 広瀬康
食ふ番ふ飛び回る死ぬ蝿無欲神奈川 長谷川水素
電線に立つ椋鳥の等間隔東京 江口足人
ペンギンを並べ直せり大南風兵庫 果樹
ゲバ文字の息苦しそう晩夏光茨城 五月ふみ
【嵐を呼ぶ一句】
ハグ、境、輪郭、蝉の声、眩暈大阪 未来羽
遠距離恋愛が終わる時みたい。相手の香水が変わったか。この日、それ以降の、暑く、無色透明な記憶。