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青嵐俳談

公開日:2021.03.26

[青嵐俳談]森川大和選

 新米教師として南予に住んだころ、自然の遊び方を教えてくれた恩人がいる。海も山も好きな人で、正月から秘密の波止場に繰り出しては、半日で10枚以上の真鯛を上げ、カルパッチョと白ワインで明かした。また、ピッケルやアイゼンを揃えては、鬼ケ城から滑床までの雪の渓谷を丸一日かけて登った。昨年末に届いた一抱えの彼のレモン。そのお礼に、やっと熟した庭の八朔を、また一抱え、段ボールに詰めた。

 【天】

リモートの枠にもたれて春の宵三重  森永青葉

 会議では枠の中心でまじめな顔をするが、私的には自由な態度も見せよう。だからもたれている。この中七が秀逸だった。頬杖をつく画面の枠が、春の宵へ開く本物の小窓めく。感覚肥大か。リモートの一部が、もう現実になっている錯覚。近未来の真実かも。

 【地】

佐保姫と並び空港ピアノかな東京  中川裕規

 ストリートピアノが各地の駅に増えつつある。都庁や羽田空港も有名だが、疫禍で使用禁止の所も多い。掲句も無人だろう。空間の寂しさを埋める春日。女神を見てもよかろう。新しい題材を一ひねり生かした。

 【人】

卒業や辣油の膜をひとつにし静岡   古田秀

 式後、みなでぎょうざを食べたと推定。友情はニンニクが染み付くよう。辣油の離合集散が、互いに遠慮などない話しぶりを隠喩する。また一緒に食べにくる。4月から住まいが別れ別れになっても。

 【入選】

オンライン授業ときどき石鹸玉東京   たっか

椿落つ「間隔開けて並びましょう」                 愛媛大岡部新

珪藻きらきら蝌蚪のほろほろうまれくる福岡    横縞

母猫の乳首ぷっくり薔薇の芽や松山  松浦麗久

空つぽはわたし冬芽はびつしりと京都  青海也緒

反り返る巨塔に蜂の黒光り立教池袋高  海老海老

鳥帰る十字の簡単な地図で神奈川    木江

たましひに草原あらむ冬銀河明治大 長谷川凜太郎

解体を待つ遊園地いぬふぐり宮城    遠雷

入学の窓鳴らしけり桜島兵庫 染井つぐみ

流氷や雲の速きを雲の追ふ北海道 北野きのこ

風の涙を菜の花の喜びを東雲女子大  坂本梨帆

洗骨にホースを伸ばし桜まじ沖縄 南風の記憶

スプリングコート双子の兎抱く東京外大   のどか

右指せば右向く親子さくら餅松山  若狭昭宏

マカロンに紅茶ボサノヴァ雪間なる岐阜 後藤麻衣子

寄せ書きの端のあざらし桜咲く今治西高  盛武虹色

 【嵐を呼ぶ一句】

やがてコロナ世代うどんにゼンマイ神奈川 いかちゃん

 旬の山菜うどんをすする。日常が非日常となり、新しい日常になったこの一年。混乱もいつか過去になるという達観。「コロナ世代」と自虐して、自らに「どん」「マイ」と言い聞かせているように読める。

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