朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2020.01.03

【青嵐俳談】神野紗希選

 昨年末の漫才コンクール「M―1グランプリ」では、ボケの発言を尊重し肯定する優しいツッコミのスタイルが人気を博した。時代とともに価値観も手法も変わる。他者を否定しない力、想定外を受け入れる力。新時代の俳句もそうした今の感性と不可分ではない。

 【天】

月凍る辺野古の土砂にジュゴンの死大洲高  岡田真巳

 米軍基地移設のため、辺野古沿岸部へ埋め立ての土砂が投入され始めて1年余り。辺野古は絶滅危惧種のジュゴンの生息地だったが、工事は美しい海を破壊し続け、彼らの姿も消えた。暖かい沖縄の月が「凍る」と感じられるのは「ジュゴンの死」を重たく受け止めるがゆえ。私たちはこのままでいいのか。季語に批評を託す。同時作〈受験カード札束のごと暮早し〉も、受験カードを即物的な札束に見立てた批評性が光る。

 【地】

怠けよと冬の空より鳥の羽今治  犬星星人

 空から降る鳥の羽を、大いなる者からの「怠けよ」というメッセージとみた。日常から真理へフェーズがギアチェンジする瞬間。確かに我々は勤勉すぎるのかも。一呼吸置き空を仰げば、日常の裂け目が見える。

 【人】

引き抜いてみたし師走のチンアナゴ神奈川  ふるてい

やまいだれ頰にひんやり白兎東京外語大 中矢のどか

 ふるていさん、年の瀬へ急き立てられる師走だからこそ、シュールでかわいいチンアナゴに癒やされたいのだ。のどかさん、唐突な「やまいだれ」からの、頰に触れた兎の体の「ひんやり」。イメージから感触への転化が、言葉でしか開けない不思議を見せる。

 【入選】

辞書にみづかよへる匂ひ夜の落葉北海道   ほろろ。

鉄塔の撤去シリウス駆け巡る関西大   未来羽

アフガンの月は冴ゆるや聴診器松山     稀

星は澄む君はオレンジのセーター新田青雲  中田真綾

冬の橋から学校を見ておりぬ東京  小林大晟

イブの夜や赤本隠す包装紙新居浜   羽藤れいな

落葉は何色か聖書は正しいか大阪    ぐでたまご

夢精のごとき白息の豊かさよ同   ゲンジ

手のひらの柔らかきこと冬の鹿新潟大   綱長井ハツオ

くしやくしやにして胸に抱くカーディガン向陽高    美菜

ひっくり返ってゲレンデの空青し弘前高   鰊記高

コート取りに戻る8番スクリーン埼玉  さとけん

雨後といふ山茶花甘くすることば洛南高    沙山

水仙の先に触れたる夜空かな同     虱

隙あれば見つめる人とくず湯かな松山   川又夕

木犀の道やあなたの手の微熱松山東高  山根大知

 【嵐を呼ぶ一句】

暖房に母の温度を探したり洛星高    紅楊

予約するクリスマスケーキ彼の予定宇和島  アキバラ

 求める温度としての「母」、予定が気になる相手としての「彼」、いずれも選択がベタ。気になる箇所を穴埋めにして〈暖房に象の温度を探したり〉〈予約するクリスマスケーキ猫の予定〉など発想を飛躍させよう。

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