朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2019.09.06

【青嵐俳談】森川大和選

 俳句甲子園こぼれ話。この夏、松山東高校が対戦した関西の高校に、県外まで往復約5時間もかけて、大人や学生が腕を磨く句会へ通う方がいると分かった。何とあっぱれなことか。敬意を表したい。俳句に賭ける青春が太白星(金星)のごとく輝きますように。

 【天】

桃を売りきって東京みずびたし東京  小林大晟

 「東京」は自ら歩き楽しめば、その価値を無限に細分化できるが、遠景に構えて見れば、一塊の象徴的な記号になる。不思議な街だ。そしてそれが「みずびたし」だなんて新鮮な把握だ。売れて、ヒトの手に渡る「桃」の一つ一つまで、濡(ぬ)れて輝く充実の時空。

 【地】

ごろごろとむかごスキャットするやうに神奈川     ぐ

 ジャズの即興歌唱法の「スキャット」が斬新でよかった。零余子飯(むかごめし・秋季)を初めて食べた時の口中の感慨か。甘みの濃い山芋の味が広がる。

 【人】

鍵をかけるよ峰雲は見えるけど松野  川嶋健佑

 口語の表現が童話世界へ引き込む。じわりと恐ろしさが残って飽きない。同時作〈次女が長女を殴るポンポンダリアかな〉の愛らしい暴力性や〈八月の戦車は丘に月は手に〉のナルシシズムも個性ある感性。

 【入選】

夏燕まだ燃えてない死が石油長崎大  塩谷人秀

花は葉にたばこ移しに湿りし火愛光高   kondoh

楽器屋の砂利が泉のごと絡む松山西中等   岡崎唯

部屋に持ち帰り蛍が光らない京都  青海也緒

星涼し中指の爪不恰好松山   みなつ

朝焼や「VW」の信号旗東京家政高  黒崎愛子

秋蝶を追ひ抜かしたる観覧車向陽高    美菜

カスタネットの凹んだところ鰯雲愛知   五月闇

白球は画面の奥へ花オクラ八幡浜  浅倉季音

串カツの衣ずるんと残暑来る福岡  あいだほ

まどろみの重さに傾ぐ浮き輪かな広島  竹内桂翠

雑居ビル蟬茸の分枝の濁り沖縄 南風の記憶

ナメクジや粘りレンガに溶け込んで新居浜    翔龍

蛇穴に入るやおまへは誰なのか松山   川又夕

月涼しむかしここらは首切り場愛知   岩のじ

蟬時雨無人列車の通り過ぐ松山 松本美恵子

 【嵐を呼ぶ一句】

飯盒に水の臭ひや反戦忌北海道 三島ちとせ

 「反戦忌」という表現が大胆だ。将来、季語に加えることができるだろうか。先の大戦を知る世代は8月15日を「敗戦日」や「敗戦忌」と言う。負けた「実感」が強いのだ。次の世代は「終戦日」や「終戦記念日」と、戦争を「語り継ぐ」表現だ。では、戦争について、かろうじて肉声で「聞き及ぶ」今の世代は、どのように主体的に受け止めることができるのか。そう考えれば「反戦忌」はよく言い得ている。平和を享受するだけでなく、能動的に「反戦」の意志を伝えている。

 

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