朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2019.05.31

【青嵐俳談】森川大和選

 昨年の俳句甲子園に登場した〈ゴールデンウィーク清流線の旅 神足颯人(徳山高)〉が広告俳句だという議論が起こった。「清流線」は山口県岩国市にあるローカル鉄道。この句は固定された視覚情報の提示ではなく、疾駆する車窓に、読者が自由に、存分に風景を想像できる余白がある。そうさせる清涼感がお手柄。

 【天】

春愁の随にWaltzfor Debby 長崎大 塩谷人秀

 ビル・エバンスの弾くリリックなジャズ曲。風と光の優しい緩急が放射される。春の透明感を思うのは、ピアノの高音の裏にコントラバスの振幅が深みを与えるからだ。もう半ばは癒されていて、残り香に浸っていたい気分が勝る春愁の側面の透明感。同時作に春愁のヒントがあった。〈ゼミ室の教授の妻のさくらんぼ〉の着眼も〈雲の死を宣告したる蛙かな〉の独創も優秀。

 【地】

二次創作のようであまねく雹がふる東京  小林大晟

「金偏に武」を調べけり山躑躅同  須賀風車

 虚実混交の二句。前者は現実世界そのものが二次創作だと言っている。季節外れの雹は何かのバグかもしれない。後者の答えは錻(ブリキ)。臨場する山躑躅が金属化する錯覚を覚えたか。この高揚感が句になる。

 【人】

絶縁は清明の岬の果てで関西大   未来羽

 ドローン撮影した映画の告知シーンのような奥行き。まだ少し広告的だがダイナミズムを評価する。同時作〈桜蘂降るを乳がん検診車〉の色合いも〈USB三回挿して四月馬鹿〉のおかしさも少し近いが上手い。それぞれ迷いがない。今後伸びる感性だ。

 【入選】

罰として人体模型拭く薄暑埼玉  さとけん

ジグソーパズルバラバラバラバラ夕立 神奈川    ぐ

痛いのは春月に吸われましたとさ愛媛大  近藤幽慶

花冷や看板に透く蛍光灯大阪    大学

金糸雀に相席譲りさようなら松野 高橋あゆみ

コンタクト液の油晩春のつやめき松山  脇坂拓海

エビフライ落として跳ねる春の塵東京外大中矢温

海色のゼリーまつさかさまに皿松山   川又夕

夏めくやゴムパッキンの白きこと同    大助

夏野やケーキ上のピンクペッパー同   みなつ

文明の寿命みじかし蟬時雨今治  犬星星人

百畳の「令和」の凧や風薫る大洲高  岡田真巳

友人と学食の列山覚める新居浜高専    翔龍

 【嵐を呼ぶ一句】

イヤホンのミントのフォルム五月来る済美平成    まを

天窓の罅より春光尾州織愛知   岩のじ

 今回の提言は「広告を超える」。前者はミント色のイヤホンと五月来る光の立体感の配合が良い分「フォルム」が臨場感をそぐ。後者は尾州織の高級感に天窓の罅の意外性が効く。老舗の工房か。「より春光」の類想が惜しい。両者とも「ポスター」に収まってしまった。

 

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