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青嵐俳談

公開日:2019.05.24

【青嵐俳談】神野紗希選

 理屈じゃないが感覚的にぴったりはまって気分を出す、そんな風に、一句に季語を呼び込めたら幸福だ。

 【天】

苔の花終わりでも始まりでもない済美平成    まを

小さな苔の花は、人の気づかぬうちに、ひそかに咲く。気づかないのだから、苔の花がきっかけで私たちの何かが終わったり始まったりもしない。終われば始まり、始まれば終わる、この世の循環。その外にある永遠の無時間へと手をかけた句。

 【地】

目刺焼く八方睨みのモナ・リザ伯方分校  村上れあ

 どの角度からも目の合いそうなモナ・リザの不穏な視線を「八方睨み」の一言でつかみ出した。俗な目刺の配合も大胆。目刺も絵も、モノクロに焦げて。

 【人】

花菜雨三つ編みの木曜日はあした東京外大   中矢温

シーラカンスのごと横たわる昼寝の子松山  松浦麗久

 温さん、木曜日は三つ編みと決めているのか。その自分ルールの不可思議が、季節の途上の花菜雨のぼんやり感と合う。麗久さん、眠る子に古代から続く命のリレーを見た。ただ、核となるシーラカンスの情報が出オチしてリズムも悪いので、組み直して〈昼寝の子シーラカンスが横たわる〉などと直結させるのも手。

 【入選】

野薊をつんで魚が飛ぶ日まで神奈川     ぐ

リセットボタン凹んだまま夏来る松山   みなつ

告白や躑躅のショッキングピンク今治  犬星星人

春の夜ピアノを濾過装置とす愛媛大    瑠璃

蝶々のキイロイセンヘサガリナサイ同  近藤幽慶

春の野や今日も誰かの誕生日今治    立志

蝌蚪に脚初恋に羽生えにけり松山    奈月

春の鴨涙はコンタクトのせい土佐女子高    南風

春空と輪郭のないプリンかな東京  小林大晟

菫草木のプレートにしらすピザ愛知  蟻馬次朗

風光る令和のイントネーションは?新居浜 羽藤れいな

元号の終章序章笑う山東雲女子大  坂本梨帆

古本の水吸ふ章や宵の春松山西中等   岡崎唯

花盛り警察学校開放す同    訛弟

空っぽになりぬ花宵のモノレール大阪    大学

スマートフォン夜の暗さにして躑躅兵庫   藤田俊

夏めいて暗闇に喰う中華かな同 内橋可奈子

花曇引き金の感触の残り愛光高    甘煮

今宵雨竹の子ほろり長電話松野  岸本有希

結婚を急かす父母白木蓮広島  竹内桂翠

ベイクドキャラメルケーキ暗黒に桜蘂松野  川嶋健佑

朝の蝶問診票に続く丸松山東高   武田歩

3度目のヘアドネーション薄暑かな同  山内那南

 【嵐を呼ぶ一句】

鳥、籠の空つぽは無蜘蛛の巣張る松山  脇坂拓海

 「鳥籠」と続けて読みたいところ、読点で「鳥」と「籠の」を区切って読者の意を裏切る勢いが好きだ。ただ「空つぽ」からの「無」「蜘蛛の巣」は予定調和か。

 

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