公開日:2019.02.22
【青嵐俳談】森川大和選
スウェーデンの劇作家ストリンドベリーが最晩年の誕生会で後進の芸術家たちに「青春万歳」と叫ぶ。青春期の彼らのみずみずしさを祝い、弱る足取りにも、今なお満ちる自身の青春性を謳(うた)ったエピソード。この話は1970年、古希にして青春ただ中に立っていた中村草田男がNHKラジオ「人生読本」で引用した。題は「永遠の青春」。
第1回「青嵐俳談」大賞表彰式・朱欒(しゅらん)フォーラムの会場にも、これと同じ風が吹いた。
【天】
胃カメラに波打つ襞や雪催松山東高 武田歩
胃カメラの丸い視界を追い抜くように、等間隔にうねる襞。ぬめる艶。所有感を喪失した奇妙な高揚感。その非日常性と、雪を産み落とす空の緊張感が呼応している。胃の襞と分厚い雲の襞も交錯している。
【地】
山脈や燐寸はすでに焚火なる愛光高 kondoh
上五の「や」の省略に〈遠山に日の当たりたる枯野かな 虚子〉の空間構造が内包されている。山脈に目を遣った瞬間、火を起こした燐寸が、立派な焚火として燃え立つ。空間の遠近大小を操り、等間隔に流れるはずの時間に緩急を与えている。琴線に触れない時空はどれも切り落とし、記憶をコラージュする手法だ。
【人】
発熱に群るる寒夜のフラミンゴ今治 犬星星人
高熱の朦朧(もうろう)とした意識の中に、丹頂鶴のように白息を吐きながら、フラミンゴが群がってくる。奇妙な童話的発想だが、そんな詩があってよい。
【入選】
冬海は月の鱗として揺らぐ松山西中等 岡崎唯
登山かな昼のはやさのうた流れ松山大 脇坂拓海
初星や一万三千年後ベガ松山 松浦麗久
流水に花枇杷頭痛の視野撫でん沖縄 南風の記憶
ストーヴとオンザロックと本がある東京外大 中矢温
一字分占める食偏冬惜しむ広島 須賀風車
針刺のショッキングピンク利休の忌長崎大 塩谷人秀
画用紙に未完のたまご冬椿松山東高 吉田真文
春雨をにじませてゆく稚魚の眼よ松山 若狭昭宏
孔雀緑ひとすじ春菊さくり同 川又夕
大寒を過ぎ破水せし夜のこと北海道 三島ちとせ
【嵐を呼ぶ一句】
頰が先か、桃が先か、くゆりカリカチュア愛光高 ゆかり
問題だ。そもそも俳句か。表現された意味も遠い。摑めども逃げる。しかし、いつからかそれが楽しいのだと気付く。「胡蝶の夢」では、荘子が夢の中で蝶となり、自分の実体が蝶だったか、人間だったか区別を失うが、この句も頰か桃か実体の意味性を放棄する。人為はまるで煙のようにむなしく、戯画でしかないのだ。