朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2018.11.16

【青嵐俳談】神野紗希選

 秋は寂しい。冬は暗い。最大公約数的感情に還元してしまうと、類句類想の山に葬らざるを得ないが、私の寂しさ、私の暗さへ細分化してゆけば、普遍性を備えつつ、一回きりの何かを句に宿せるのではないか。

 【天】

茱萸の皺夜毎に燃やす遺品かな松山  若狭昭宏

 茱萸は秋の季語。旬を過ぎて皺が寄りはじめた茱萸の衰えと、遺品を燃やす心のほの暗さとが、冷やかに通い合う。夜が来るたびに、かの人の遺品を一つずつ燃やす。照らされる茱萸の皺まで見出した執念さ。炎によじれる遺品を見つめながら、私だけの葬は続く。

 【地】

さるすべり合羽に透けるシャツの柄大阪    大学

 雨の日、透明な合羽に、その下に着たシャツの柄が細かく透けている。その肩に散りかかるさるすべりも雨粒も、小花柄のように細かい。微細な質感を的確に表した、解像度の高い一句。傘をささない空いた両手が、どこか夏の終わりの棒立ち感を出してもいて。

 【人】

ジャックランタン抱く子はゾンビ星月夜今治  有友勇人

 ハロウィンという新素材の一場面を、具体的に丁寧に描き、広やかな季語で抱きとめて肯定した。ゾンビの扮装をした子の姿は、ちょっと怖くてとてもキュート。でも、もしかしたら、本当のゾンビが紛れているのかも? ハロウィンは死者の蘇る日だから…。

 【入選】

ボジョレー・ヌーボー花柄の傘売る花屋東京外大   中矢温

立て置かるカヌーのパドル夕紅葉松山西中等    訛弟

天高しこと座のベガのごとき骨松山  松浦麗久

蓑虫は太陽あるほうへ揺れる済美平成    まを

ギター背負い色無き風となる荷物KTC松山  坂本梨帆

焼肉の鎮火に徹す十三夜大洲高  岡田真巳

考えのちがう人たち芋煮会京都  青海也緒

霜降や声が弓矢のように刺す松山   みなつ

芋虫の排水溝に流れけり松山東高  小野芽生

冬青空相互ブロックなる平和今治    立志

流星や少年少女置き去りて伯方高  仲田彩乃

末枯の実験室出て友と会う高知大  若下優帆

 【嵐を呼ぶ一句】

マウスポチ愁思アマゾン.コム松山大  脇坂拓海

 パソコンをひらき、ネット通販大手アマゾンで買い物中。マウスをポチっとクリックした瞬間、えもいわれぬ愁いに駆られた。また買っちゃったという生活者の嘆きか、グローバル資本主義への批評か。新奇な素材、妙な擬音と、嵐を呼ぶ要素盛りだくさんだが、下五「ドットコム」の音の響きのよさはクセになる。

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