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公開日:2018.09.05

第四回 高校生俳句鍛錬会(高俳鍛)開催

第四回 高校生俳句鍛錬会(高俳鍛)開催

 

日時:二〇一八年七月二十二日(日)九~十七時

場所:愛媛新聞社 七階中会議室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 参加者 ◆

愛光高校    中井望賀(3年)・荻野登理(2年)・森島小百合(1年)

松山西中等   谷川飛奈(4年)・永本瑞季(4年)・金井俊太郎(4年)

宇和島東高校 板尾真奈美(3年)

松山東高校   武田歩(2年)・中山寛太(2年)・小川一磨(2年)・吉田真文(1年)

コーディネーター 森川大和 (以上十二名)

 

 

◆ 活動スケジュール ◆ 

(1)兼題句会

1人3句投句。戦争詠1句・俳句甲子園全国大会兼題から動きやすい季語で2句。

(2)戦争俳句勉強会(宇多喜代子『ひとたばの手紙から』より)

 ・太平洋戦争開戦の際の俳人の作品を通して

 飯田蛇笏・竹下しづの女・長谷川素逝らの約20句をもとに、開戦の賛否にまつわる表現の在り方(強弱や行間の含意)について、読み、考え合った。

 ・近代最初の戦争俳句

 日清戦争を詠んだ正岡子規、日露戦争を詠んだ森鴎外の20句から、近代最初の戦争詠に造詣を深めた。

(3)季語研究(講談社『新日本大歳時記』より)

・俳句甲子園全国大会の兼題季語(草笛・蛇・胡瓜・滴り・残暑・草の花・鵙)の中から、(1)句会で多く投句された「蛇・胡瓜・草の花」の動きそうな季語に絞り、例句研究を通して、「井守・守宮・蜥蜴・蝮・飯匙倩」、「瓜・甜瓜・茄子・蕃茄・西瓜・南瓜・冬瓜・糸瓜」、「秋草・草の穂・草の実・秋の野・花野」の季語の守備範囲の微妙な違いを学んだ。

(4)ディベート練習

参加者を紅白2チームに分け、(1)句会に投句した作品を用いて、ディベート練習した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 句会報

(1)高得点句より

【天】7点 

猛暑という天網人を逃さぬと松山東2年  小川一磨

【地】4点 

色草の明るさ馬の尾に触れて 松山東2年武田歩

乗り過ごす現世よ蜥蜴走り去り 愛光1年森島小百合

籐椅子や全てを語り継ぐ夜だ愛光1年    森島小百合

【人】3点 

戦争の話を聞けず冷蔵庫宇和島東3年 板尾真奈美

 

 

(2)作品講評

  【天】は『老子』の一節「天網恢恢疎にして漏らさず」(天の網は広大で目が粗いようだが、悪人は漏らさずこれを捕らえる。悪事には必ず天罰が下る)の意を込めた。異常気象は、過度の繁栄を遂げた人類への天罰であるという戒めがある。「天網」という認識の在り方に、強い個性が出た。知識に基づきながら、現代詠に工夫している。

  

 【地】1句目は、穏やかな写生句。「色草」は「秋草」の傍題であるが、「秋の七草」を包含した季語で、百草千草の可憐さを主とする「草の花」よりも、彩りの分量が多く残る。それが、牧場か草原か、馬の尾に触れて、本来の姿以上に、輝きを放つ。元々の明るさ、尾に触れた因果、それらを超えて、輝きを放つ。

  

 【地】の残り2句は同作者。生きていると、周囲の人間の波長と合わない場合がある。本当は、それこそが自分らしさであり、個性であるはずなのに、タイミングを外すことが増えてくると「乗り過ごす現世」と感じるのだろう。一見、暗い俳句のようだが、「蜥蜴」の尾の鮮やかな青が効いている。作者はそんな自分も好きなはずだ。

3句目は、今回の句会では、戦争詠と読んだ。「籐椅子」の軋みや緊張感が効いており、涼しげな肌触りの向こうに、夜が封じ持つ熱量を予感させる。一方で、「全て」という全体化した表現への危惧が句会でも話題に上った。また、この句の作中主体は語り手であって、作者ではない。作者の句にするならば「~を聴き継ぐ夜だ」と推敲できる可能性が残る。

 

 【人】も戦争詠。戦争の話を「なぜ」聞けないのか。恐怖や悲憤の生々しさを直視し続けられないからか。語り手が減り、記憶の風化を免れないからか。次に、「何から」聞けないのか。語り部や祖父母の肉声からか。報道や教育や国家の示す歴史からか。「聞かず」という能動的黙殺ではなく、「聞けず」という受動的落胆の表現に落とし込んだ点が、読者に、余白の意味を、様々に求めさせる。そして、この「聞けない」落胆は、戦争と現代の若者の距離を言い得ているのではないか。「戦争の話」に触れる非日常から戻る際、日常の象徴として「冷蔵庫」が存在感を放つ。ガバリと冷蔵庫を開くときの無遠慮。家庭らしさの出る、ものの並びの安心感。いつも無意識に、本音が一つこぼれる。