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青嵐俳談

公開日:2022.01.14

[青嵐俳談]森川大和選

 1週間で15倍超。第6波。オミクロン株の感染力に青ざめる。海外の報を受け、瞬く間にこの社会変化。世界が速まっている。再び息の詰まる思いもあるが、正しく対策し、弾力的に暮らしたい。

 【天】

アルコール消毒液が白い息松野 川嶋ぱんだ

 もう何度消毒してきたか。今後も。その噴霧が冬日に雲散する。景に人間の嘆息が託される。実と喩を行き来できる「が」の述べ方。多く語らず象徴的。

 【地】

おでん屋の口の中まで似る親子愛媛大  近藤幽慶

父も子も腰痛持ちでおでん食ふ同  八木大和

 口の中まで観察できる尊さよ。把握が面白い。店の具材も食卓に上る。染みたそれ。それをその口、その喉に吞み、その腹を温める。また、その猫背では、腰も痛かろう。ありのままが、しみじみと季題に合う。

 【人】

ハチノスとセロリを煮こむ虚言癖静岡   古田秀

人類史海鼠を食べる前と後神奈川 いかちゃん

 伊料理のトリッパは舌にとろり、奥歯にしゃきしゃきと違う食感が楽しい。ただ虚言癖の相手では、真意をつかむにも、食すにも勇気が要る。後者にも俳味。人類が東アジアの海岸に着き、ほどなく海鼠も食べたはず。本来、歴史の前後などないが、大げさで滑稽。

 【入選】

Zoomから抜け出せぬまま冬菜飯京都大   武田歩

ギターにも炬燵にも名をつけてゐる大阪   ゲンジ

かまくらや寄贈文庫はよくかほる九州大  長田志貫

明朝にゴシック混じる冬の雨茨城  五月ふみ

内緒話のように霜夜の指しゃぶり大阪 ぐでたまご

狐火がまたこうやって暴れるでしょう松山 ツナみなつ

当然の如く葛湯を出されゐて同 松本美恵子

吾の離婚忘れし義母と雑煮食う宮城    遠雷

垂り雪介護の件は明日話そ兵庫 染井つぐみ

ケア手帳しづかに閉ぢて冬椿筑波大  木谷友耶

数へ日の都バス一日乗車券神奈川    木江

南天やもぬけの殻の純喫茶鳴門教育大   田面類

光射す海にたゆたういさなかな明治大  日高美朝

栄養ドリンク師走の帰路のエコバッグ松山東雲大  坂本梨帆

カフェオレボウル残す子猫のぬくみかな佐賀  杢いう子

歌舞伎町ネオンに消える嫁が君東京 武者小路敬妙洒脱篤

 【嵐を呼ぶ一句】

冬至湯やマラーのやうに横たはる瀋陽  加良太知

 仏革命を主導した彼の暗殺現場は浴槽だった。画家ジャック・ルイ・ダヴィッドの「マラーの死」が有名。その革命の激動になぞらえるべき、作者の一年だったか。喩えはやや物々しいが、柚子湯に邪気を祓い、疲れた体躯を十分に癒し、英気を養ってほしい。

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