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青嵐俳談

公開日:2022.01.07

[青嵐俳談]神野紗希選

 〈元旦に仕事 生きるため生きる〉は高田祥聖さんの作。年末年始も多くの人が働き社会を支えている。会社のため、誰かのため、さまざま生きる目的はあれど、シンプルに「生きるために生きる」と噛み締めるトートロジーのたくましさに、私もぐっと前を向く。

 【天】

鳩に雪触れてみづみづしき磁界東京  早田駒斗

 磁界とは磁石の力が働く範囲。見えないけれど引き合う力が働くのは、生きた空間だ。だからこそ「みづみづしき」に納得する。「鳩に雪触れて」は磁界と直接関係ないが、この世界で二者がかすかに関係した事例の一つとして、磁界の見えなさを可視化する。

 【地】

兎うさぎ因果応報の法則ノートルダム清心女子大 羽藤れいな

忘却はさみし岩を横切る兎大阪  すいよう

 冬の季語「兎」を寓話的に用いた2句。れいなさんは昔話「かちかち山」で悪い狸を懲らしめる兎か。因果応報というこの世の法則にうずくまれば、軽やかに兎は駆け去る。すいようさん、兎は忘却する記憶の体現者か。岩を横切る現実感が、忘却を生々しくする。

 【人】

北東へ翔る鶫よ雨空よ東雲女子大  坂本梨帆

北風や崩してアコヤ貝の山西予    えな

 梨帆さん、北東の寒さ寂しさ、雨空の暗さ冷たさ。「よ」で呼びかけて鶫に心を寄せれば、私の命も剥き出しになる。同時作〈止まり木の鶫よ君も吾も独り〉も、鶫と私を重ねて生の孤独を刻んだ。えなさん、真珠を養殖する生活圏のリアリティーが、北風という季語を、言葉から現実に生き返らせる。

 【入選】

螺旋階段オリオンを複製す静岡   古田秀

冬凪やオードトワレの瓶に砂筑波大  木谷友耶

夜鷹蕎麦推しの結婚記事も買う宮城    遠雷

コンビニに生かされてます冬菫長野   里山子

オリオン座男をやめてしまいたい松山    舞句

病名のメモの硬さよ冬の虫神奈川 稲畑とりこ

国境の立ち番終へて冬の星松山    大助

折り紙の折り目曲線なき二月大阪    詠頃

何度目の初恋だらうやぶかうじ洛南高    果樹

重ね着や好きな深海魚の話神奈川 いかちゃん

初空や絵を描く人の世界線福岡    横縞

海が見たい恐竜と冬銀河のなか関西大   未来羽

給油するスカート翻って冬静岡   真冬峰

山茶花や赤本並ぶ自習室松山 松本美恵子

手袋に祈りの言葉聞かせをり同  若狭昭宏

鍋焼食ふやラッセンの絵の下で長野   藤雪陽

ねんねこやきらきら降りてゆく涎同 DAZZA

波立ててマキャヴェリズムを遂げし鳰鳴門教育大   田面類

 【あと一歩 青葉のスゝメ】

冬海や星に成れない魚のゐて東京  山本先生

 冬海の厳しさと「成れない」悲しみが、マイナス×マイナスで予定調和に。春や夏の海にして明るさを足すか〈冬海や星に成れない魚光る〉と輝かせるか。肯定的な要素を足してマイナスを中和したい。

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