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青嵐俳談

公開日:2021.12.31

[青嵐俳談]森川大和選

 私の今年の漢字は「息」。マスク生活が日常になった。ウィズコロナの生活にも適応し、正しい緊張感の中、時にリラックスした呼吸もできている。ただ、クリスマス前後に体調を崩した。40歳を前に、体力が落ちたか。当為ながら、息の続く起居を心がけたい。

 【天】

ストーブや草書の仮名の筆の果徳島   葵新吾

 かすかな墨のかすれ。十分な筆後の余白。紙に降ろされなかった筆脈の数々に、解けて消えた万雪のはかなさを思う。石油ストーブの赤。書室の暖と外の銀。雪の形象と通じてくる。その筆致の厳かさ。

 【地】

手袋の五指を咲かせて星の悲話東京  早田駒斗

 きらきらと星をまねる子。無垢な同化。もし神話を聞かされていて、悲しみに満ちた同化ならば、その動きは弔いに似て儀式めく。子の感受性の深さ。

 【人】

獣道の重力を這う蜜柑かな伯方分校  白石孝成

 「の」が深い。獣道を眺めるうちに、意識が獣に同化してゆく。人にも眠る野趣。一生をかけて、四肢に這い固めた山の縦横無尽。獣の呼吸。蜜柑山の呼吸。

 【入選】

抱き合ふときのマフラーの瘤が邪魔海城高   南幸佑

虎落笛軽きへその緒見つけし夜愛媛大    羅点

桐箱の棺めきたる雪催福岡    横縞

目が覚めて馬の首あるかに深雪東京 大黒とむとむ

骨太の消防服と蒲団干す岐阜 後藤麻衣子

自尊心あり鯛焼にカスタードあり神奈川  田中木江

冬の月小便小僧の前にデモ同 にゃじろう

花八手さびしいときに飲む薬静岡   古田秀

ってかそんなことより日向ぼっこしよ東京  山本先生

白き息吐いて一〇〇球目はフォーク千葉 平良嘉列乙

相容れぬ海空父吾冬かもめ茨城  五月ふみ

本開き薪ストーブの音の夜西予    えな

冬の虹カシスソーダの底濃ゆし神奈川 いかちゃん

結婚の挨拶父の枯葉髪松山 松本美恵子

むき出しのこゑの輪郭大晦日同   川又夕

仏前に小さく割つて千歳飴佐賀  杢いう子

ドレミファと動き出す初電車かな兵庫 染井つぐみ

伊勢海老や喉を過ぎゆく形容詞神奈川 長谷川水素

綿虫や腹痛のどの業の所為大阪   ゲンジ

マフラーのままフルートを吹く朝名古屋大   磐田小

ゆつくりと流星嘉手納の二重窓沖縄 南風の記憶

インバネス受胎を隠したる戦士長野   藤雪陽

海底に心臓隠すオリオン座宮城    遠雷

 【嵐を呼ぶ一句】

ひとはみなはこがたうをはひにのぼる岡山    ギル

 一見、平仮名が穏やかだが、「はこがた」の隠喩が重層的。AIのことか。また、前半に「に入る」と補えば、それは学校、ネット空間、分譲住宅、棺桶などに変幻する。「魚は氷に上る」という春先の陽気を思わせる季語が救い。皆様もよい年をお迎えください。

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