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青嵐俳談

公開日:2021.06.04

[青嵐俳談]森川大和選

 今治銀座を一本脇に入った金星川の風景が好きだ。一度、優雅な天然ウナギの遡上を見たことがある。小魚の反射を追って、幾本かの橋下を青サギが潜って飛んで行くのも一興。川の上に突き出した喫茶店の出窓の玻璃(はり)を、五月雨が打つ透明感も落ち着く。

 【天】

焼き討ちのしづかな炎木の芽張る京都大    夜行

 南都北嶺に対する清盛や信長の焼討が悪名高き蛮行と言われるが、そのような歴史を持つ寺社に、今春も木の芽がふくらむ。時空を超越した取り合わせで、一句のスケールが大きい。同時作〈半券のとりどりゴールデンウィーク〉は、疫禍の中に、過去の旅情を想起して楽しむ作。〈炎昼の崖の狂つてゐるひかり〉も一物仕立てで重たい。作者の句幅の広がりを喜びたい。

 【地】

家々の隙間に川や鯉幟静岡   古田秀

 空の見立てかもしれないが、実際の川と読みたい。川幅は4~5メートルほど。所々に橋が架かり、その間には生活用の廊下も渡る。夏は涼しく風通りもよかろう。何匹かの大きめの鯉幟が、狭しと泳ぐ。町の生活感と合ってダイナミック。同時作〈アカシアの花脈絡のなき電話〉も素敵。ハリエンジュの白さでは、何か脈絡がありそう。ミモザならば脈絡がなく、楽しそう。

 【人】

春星へしゆるしゆるとしをからの蓋神奈川    木江

 高知には酒盗と呼ばれる有名な鰹の塩辛があるが、この句は純粋にイカの赤作りか。白飯も酒もすすむ。その蓋を開ける音が、一日の緊張を解いてゆく。遠い春星も、酔えばすぐ傍にあるように思え、心地よい。酔い心地が「へ」に託されている。

 【入選】

つくつくし吊れば光らぬおろし金立教池袋高   ずしょ

蜂の貌老いて黒人霊歌かな東京  早田駒斗

夕顔の絡むいつかの忘れ傘愛媛大   岡崎唯

草臥れてぽつと穀雨のパン屋の灯北海道  ほろろ。

サリバン先生わたし逃水を追います同 北野きのこ

キャベツの芯捨てる性別もご一緒に関西大   未来羽

ニセアカシア以下暴力に従わぬ神奈川 にゃじろう

卯波聞く耳を削がれてパン真白同 いかちゃん

どうやら私は黒い金魚だった松山   みなつ

鯉幟深海の未曾有かな松野 高橋あゆみ

槍槓の点棒投げる熱帯夜宮城    遠雷

春雷鳴りて「欠席」に○つける茨城  五月ふみ

隣人の帰省伝ふる春の泥松山    大助

辛口のカレー新居の月朧大阪  筒井南実

 【嵐を呼ぶ一句】

ペンギンに活字喰はれて西日かな兵庫 染井つぐみ

 コミカルな前半だが、活字を失った人類の見る西日は、さぞ美しかろうと思えば、皮肉めいた一句に見えてくる。動物園のペンギンも、西日の中に本能をくすぐられ、故郷の大洋を思い出しているか。

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