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青嵐俳談

公開日:2021.04.02

[青嵐俳談]神野紗希選

 アパート前の岩にマナティと名づけ登り、沈丁花から電柱までをかけっこし、銀行前の花壇でパンジーの色を吟味する。大人が歩けば自宅から5分の保育園へ30分かけ歩く。5歳児には、毎朝が小さな旅か。

 【天】

エイプリルフール土星のぬいぐるみ京都大    夜行

火が眠る 冬の楽譜を終えるとき明治大  大西菜生

 夜行さん、嘘をつくエイプリルフールには真偽定かでないものがよく合うが、土星のぬいぐるみとは絶妙だ。カワイイの多様化する現代らしい。菜生さん、十七音全体が象徴性を帯び、火が、冬が、ありありと言葉の上に息づく。眠る火の呼吸は、心の底に今も。

 【地】

奪取・隠蔽・偽装・廃棄・残雪岐阜大   白水史

 社会に跋扈する卑劣な悪事の数々をリストアップした。国会での嘘の答弁や、文書の改ざん・廃棄を繰り返す、昨今の政治の不誠実も思う。ぬかるんだ泥まみれの残雪が、社会のぐずぐずの実情を象徴した。

 【人】

探梅や自販機のぬるいポタージュ岐阜 後藤麻衣子

職を得るための化粧や春の風大阪  平原陽子

 麻衣子さん、あるある感を備えた俳句は強い。「ぬるい」の満足度の低さが、まだ梅の乏しい晩冬の寂しさとリンクする。陽子さん、職場の服装規定を取り払う社会運動も活発だが、化粧やヒールやネクタイを強いる風潮はまだまだ色濃い。社会規範に合わせたメークは自分の好みとは違うけれど、オンオフを使い分けつつ生きる姿も、春の風は肯定してくれる。

 【入選】

背腸やや透けゐてバレンタインデー立教池袋高   ずしょ

豆苗を気安く枯らす新社員東京外語大   のどか

そんな手紙は山といっしょに焼きなさい岐阜大 舘野まひろ

嘘つきのアスパラガスに肉を巻く宮城    遠雷

うららかや鋭きナマケモノの爪新潟大 綱長井ハツオ

軟膏や自分統一して朧松山   みなつ

春雷を反り返りたる斬られ役東京  中川裕規

秒針の眠たく下りてラベンダー愛媛大   岡部新

図書館といふ如月の黙の中大阪   ゲンジ

脳みそのどこかが眠い猫柳北海道  ほろろ。

旅客機の影にのまれる菫草東京  高橋実里

逆光のドラムスティック二月尽静岡   古田秀

受験期の午後や水たまりの波紋東雲女子大  坂本梨帆

ト音記号にて干布団たたきたし神奈川    木江

タンバリンしやらら町ぢゆう春なるか東京  早田駒斗

ふるさとにバーが一軒なる四温松野 川嶋ぱんだ

泣き止んで水飲み干して春の月関西大   未来羽

選択的夫婦別姓月朧兵庫  西村柚紀

春夕焼猿の眉間に収束す茨城  秋さやか

Gジャンの裾解れたる春日和大分    優羽

 【嵐を呼ぶ一句】

冬帽子宇宙を一つにするために愛媛大  永広結衣

 宇宙は複数あったのか。パラレルワールドの衝突を回避させ、世界を支えていたのは、地味な冬帽子の人だった。世界を守る見えない戦いが、今もどこかに。

 

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