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青嵐俳談

公開日:2020.11.20

【青嵐俳談】神野紗希選

 今週の投句〈どんぐりはただですひろい放題です 中川裕規〉から〈俳諧や木の實くれさうな人を友 正岡子規〉を思った。生活経済と無関係のあれこれを喜び合うのが俳人。どんどん拾い、差し出し合おう。

 【天】

星も火も秋思に濡れてゐる蒼さ北海道  ほろろ。

月光に錆びゆく鳥の眠りかな静岡   古田秀

 星や月に心の明度を反映した2句。ほろろ。さん、「も」の並列が、星と火の共通性を差し出した。「濡れてゐる」のなめらかな質感は、生きることの連続性と地続きだ。プラス半回転ひねりの「蒼さ」の着地も鮮やか。秀さん、「錆びゆく」の一語がぎしぎしと秋を深める。眠る鳥も、命を削りつつ生きている。

 【地】

すうどんのあかるさににて枇杷の花立教池袋高   ずしょ

 枇杷の花の簡素な美を素うどんが引き出した。初冬の寒さにうどんの湯気もうれしい。比喩だと気配が弱まるので「ににて」は不要か。「すうどんのあかるさ」で切り、後は季語を描写すると、より綿密に。

 【人】

草の花相談ダイヤルの向こう東雲女子大  坂本梨帆

祈りとは蜜柑の丸みだと気づく松山   みなつ

 梨帆さん、相談ダイヤルの向こうにそよぐのが草の花なら、少し救われる気も。心を支える役割をけなげな草の花が象徴する。みなつさん、蜜柑のぬくもりに祈りを見た。丸みに絞ることで祈りの柔らかさも感じる。下五は蛇足か。〈祈りとは希望とは蜜柑の丸み〉などとしなやかに組み替え、残り五音を満たしたい。

 【入選】

わりばしのゴム鉄砲で打つ蜜柑京都大    夜行

百舌鳥鳴くや生徒を殴り吾子を撫づ沖縄 南風の記憶

晩秋の新湯つま先から入る済美平成  藤尾美波

曼珠沙華燃え尽きる義務か権利か新居浜  藤田夕加

しもはじめてふるうまれたあさのこと明治大  大西菜生

たどり着くやうに尾花に雨降れば北海道 三島ちとせ

傘さして子供びしよ濡れ墓参海城高   南幸佑

革命の火に爛れたり赤林檎関西大   未来羽

秋桜や高速脇の作業員岐阜 ノグチダイスケ

切手の影すこしぎざぎざして秋思東京  早田駒斗

供へたる酒の透明冬隣福岡   雨影青

君は僕を詠むときにいちいち許可を取る東京外大   のどか

芥箱の冬眠中と書かれをり松山  若狭昭宏

洗剤とハム買ひ出づる良夜かな同    大助

こぼすとは千本槍の露のこと新潟大 綱長井ハツオ

藤の実やいつも一言多い人松山  松浦麗久

運動会旗手の背の反りきってゐる愛光高    沙生

野良猫の髭まつすぐや流星街京都工繊大院  生田海斗

マネキンの一糸まとわぬ星月夜今治西高  越智夏鈴

背景は宇宙氷雨の二時限目大阪芸大  筒井南実

 【あと一歩 青葉のすゝめ】

白鳥座ほとんど見えぬ僕の街神奈川   とりこ

 見えないことよりは見えることを詠みたい。〈白鳥座の片翼見える僕の街〉、肯定も寂しさも強まるか。

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