公開日:2019.05.03
【青嵐俳談】森川大和選
ついに平成が終わった。今週はそれに迫る句が散見された。〈元号の残りし國や風光る 三島ちとせ〉は言葉に若葉の透明感を得て、思いが素直に句になった。上五中七は「國」の表記も奏功し、歴史を寿(ことほ)いでおり、下五では春風の光に託し、森羅万象をたたえている。〈改元祝わなこのご時世の水争い 川嶋健佑〉の「水争い」の本意は田水の配分についてだが、松山分水の時事が重なる。「改元」を機に舌戦を休止し、新時代の共創を促す願いが伝わる。〈新元号それよりフリスビーやろうよ春休み 松浦麗久〉は「やろう」までに収めて無季でもよい内容だったが、なじんだ平成への思いが6音もはみ出ており、大胆で面白かった。
【天】
ダイバーのそれぞれ浮かぶ朧かな松山東高 武田歩
楽しむ作中主体が見えないので、観光のナイトダイビングではなさそうだ。捜索か。現場検証か。その表情は見えないが、海面に浮上したときの「ザバリ」という音が、朧の湿度とも呼応して、やけに生々しく響く。ダイバーも生きており、事故現場も生きている。同時作〈リラの香の満つ飛行船過ぎ去れば〉の劇的な展開も、〈金星の明るさを吸う夏蜜柑〉の新鮮さも良い。
【地】
野を焼いて金管楽器磨かるる済美平成 宇田陸
この句の「て」は順接する散文の「て」と異なる。異なる時空と異なる主体を継ぎ合わせ、交錯する二重世界を構築している。さりげなくオシャレな「て」だ。末黒野(すぐろの)は不意にチューバが響き始め、奏者の頰は、いつしか野火のはためきに照りぬれている。
【人】
トイレから役者出てくる復活祭松山 若狭昭宏
〈夏芝居監物某(けんもつなにがし)出てすぐ死 小澤實〉に通じる滑稽味。祭後の象徴性の解けた役者。髪に荊冠(けいかん)の跡が付いていなかったか。
【入選】
印鑑を押されてミモザ散りにけり愛媛大 小泉柚乃
春の闇ハンドソープの泡落ちる松山 みなつ
アナログのノイズのように雪の庭東京 小林大晟
特急のつまりは春といふ形愛媛大 近藤幽慶
朝桜吸いつく馬の鼻の穴松山西中等 岡崎唯
子の髪は蒸しパンの香りみどりの日広島 桂翠
花陰のヘンテコなきりんの遊具愛知 蟻馬次朗
春の雲なりしチェイサーかも知れず長崎大 塩谷人秀
春北斗問3のpHは2新居浜 羽藤れいな
復興の柱を抜ける初燕大洲高 岡田真巳
【嵐を呼ぶ一句】
蛇穴を出づ空海の飛白の書今治 犬星星人
書道の五体は「篆隷楷行草」。刷毛(はけ)で書いた自由奔放な飛白体は、その6番目とも言われる。「三筆」の空海が唐から持ち帰った書体だ。句は題材が面白い分、春季「蛇穴を出づ」の「蛇」が書体の筆致に近すぎる。「龍天に上る」や「啓蟄」でも近い。「魚孵る春」ならどうか。みずみずしさが出る。