公開日:2019.04.26
【青嵐俳談】神野紗希選
3歳の息子がご近所の八木さんを「ひつじのおばちゃん」と呼ぶ。ヤギをヒツジと勘違いしているのだ。あるいは「飛ばない動物園はいやだねえ」と笑う。砥部町の「とべ動物園」を「飛べ!動物園」だと思っているらしい。音と意味の交錯も言葉の楽しみの一つ。
【天】
ジャージでも歩ける街や春の草松山 大助
ジャージ姿の(ややだらしない)自分を許してくれ、また許されていると実感できる街に今いることの安らかさが、明るい春の草で引き出された。コンビニへ行った帰り、柔らかい草に寝転がり空を仰げば、深々と呼吸ができる。同時作〈起きがけの冷凍ピラフ花の昼〉〈背広で手拭く先生や水温む〉も、一人の時間のものぐさや、先生の少し恥ずかしい仕草を、あたたかい季語で肯定する。今を生きる飾らない人間の尊さ。
【地】
芹なづな友と本棚来る明日東京外大 中矢温
春の七草を唱えるリズムが、待つ心の弾みを伝える。本棚の新生活感もフレッシュ。同時作〈夜桜やポケット揉んで鍵のある〉、「揉んで」の実感が確か。
【人】
セブンイレブン遠いな朧月も遠い松山 松浦麗久
留年の人にボールの転がり来長崎大 塩谷人秀
麗久さんの句、コンビニへ歩く途中に月を見上げた。店の灯も月も、遠く朧に霞む。生の実感がふと薄れた瞬間。人秀さんの句、留年した人の足もとに、ころころとボールが。スポーツで青春を謳歌する若者との距離感があらわになる瞬間。さりげない諧謔の一句だ。
【入選】
滑走路に礼する人や夏立ちぬ愛光高 kondoh
蝶の昼広告看板の白紙済美平成 まを
新しい友だちは蝶つまめる子京都 青海也緒
母校の学生証掲げ三月の水族館東京 持田もちか
桜撮る千八百CCのオートバイ大洲高 岡田真巳
風の句を口ずさむ夜の春愁ひ今治 立志
山笑ふジンジャーエールは君のもの
松野 高橋あゆみ
埋葬の気配に滑る春の露松山西中等 岡崎唯
テディベア並べて干さるる大掃除同 岡田侑楽
春暁やスカイブルーのルームキー
松山東高 武田歩
クロックス履きクロッカス渡す君同 小野芽生
ご自由にお取りください卒業のボタン愛光高 杠
三段がばらばらである春の雲東京 小林大晟
行く春や知育玩具のネジ落ちて新居浜 羽藤れいな
カノンコード崩れるやうに柏散る沖縄 南風の記憶
花粉症右目は象牙多層球愛知 岩のじ
うぐいすやバター醬油の匂いくる同 蟻馬次朗
春空や免許センターへのバスに
KTC松山 坂本梨帆
【嵐を呼ぶ一句】
恋愛は学問教科書は桜松山 若狭昭宏
「恋愛は学問」の定義にどきり。確かに巷には指南書も多い。桜だとあまりにメジャーなので、自分なりにお手本にしたい花をもう少し探すのもよいか。