公開日:2019.03.15
【青嵐俳談】神野紗希選
「青嵐俳談はカタカナが多いね」といわれた。そうかもしれない。今の普通の日本語で詠めば、外来語もおのずと混じるだろう。そもそも俳句は、和語を基本とした和歌に対し、漢語(=外来語)や日常語も差別せず同列に扱った、平等な詩だ。現代の俳句も、日常を自由に取り入れながら、今を切り取る詩でありたい。
【天】
春光を拾いきれないポメラニアン東京 小林大晟
ふわふわかわいい小型犬・ポメラニアンが、光あふれる春野で駆け回る。そのせわしさを、春光を懸命に拾っていると見立てた。金色の毛がたっぷり光を吸って輝く。ドーベルマンや柴犬ではこの跳ねた感じは出ない。犬の散歩も、言葉の力で、春の賛歌となった。
【地】
海底に春立つ平家物語松山東高 山内那南
コラージュの天使ふらりと春の雲今治 犬星星人
那南さんの句、平家物語の栄枯盛衰に思いをはせればふと、見えない海の底にも春立つ気配を感じた。鋭敏な感性だ。栄華を誇るも源氏に敗れ、壇ノ浦に沈んだ平家の一族。海底には今も魂が漂うか。犬星さんの句、天使と春の雲の完璧な出会いも、コラージュで切り貼りされた結果なのが面白い。あちこちで春が同時多発的に生まれる、世界のちぐはぐなありようを、美術技法を援用し、言葉で描いてみせた。
【人】
髪型がタツノオトシゴ春一番松山 松浦麗久
浴室に乳首が六つさくらの芽京都 青海也緒
麗久さんの句、寝ぐせか、春一番の突風に逆立てられたか。キュートな見立てに笑みがこぼれる。也緒さんの句、日常のにぎやかな入浴風景だ。私の乳首と子ども二人の乳首、合計六つ。乳首も桜の芽も、つんと紅色。楽しい類似の配合は、シンプルに春を寿(ことほ)ぐ。
【入選】
桃の香のやはし微睡む猫やはし今治 立志
「補習券買わんといけん」春疾風KTC松山 坂本梨帆
猫缶に箸ついてくるあたたかさ松山 若狭昭宏
寒暁へ僕らの存在価値を問う新居浜 羽藤れいな
梅月夜小指の長さほどの枝済美平成 まを
クレヨンの原色五本天狗茸沖縄 南風の記憶
ものの芽や肩いからせてラッパ吹く松山 川又夕
狐火溶けたマニキュア血の如し松野 高橋あゆみ
寒月光見えていたものまで見えず伯方高 仲田彩乃
春分の嚙み砕きたるアーモンド松山東高 武田歩
振る旗の色を問ひたる春の丘松野 川嶋健佑
アルミニウムの最果てや春の雨松山 みなつ
卵黄は崩して菓子に春兆す北海道 三島ちとせ
【嵐を呼ぶ一句】
アナログの砂嵐は砕氷船松山東高 小野芽生
何も映さぬテレビの、あの砂嵐を詠む句は多いが、その無機質な音に砕氷船を見いだしたのがユニークだ。「砂」と「氷」も、世界の構成物として呼び合う。