朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2019.03.08

【青嵐俳談】森川大和選

 卒業式。その山場は卒業証書授与。その涙は「仰げば尊し」。しかし、その佳境は「答辞」。ある年の冒頭は「白木蓮の蕾が日ごとに膨らみ、今にも翔び立とうとしています」だった。18歳のみずみずしい季節の言葉。

 【天】

春雪のまま鉢植えは地に返す北海道 三島ちとせ

 視覚的な冷たさを残す「春雪」が効いている。雪の柔らかく降り敷いた土ごと、鉢から大地に植え替えていく。寒さに耐えたけなげな花は水仙、アネモネ、クロッカスあたりか。優しい十指を持つ作者の吸気が凜と冴(さ)えている。人と大地に息遣いがある。同時作〈梅を見に行くか牛丼冷める前〉も作者が見える。

 【地】

ぶちまけし珈琲豆や春の月今治  犬星星人

 ビッグバンによって創生する星々が、驚くほど遠くまで滑り、一つずつ失速して、あるべき位相にたどり着く。その一つを「月」とすれば、隣接する地球上の小さな存在の人間が「春」を定位する、キッチンの時空へ回帰する。いれたての珈琲の香りに浪漫がある。発見されない運命の星だってあるはずだ。同時作〈建国の日のタンカーの喫水線〉は今治の海。建国の日に多国籍のタンカーの往来を見る。〈悪党は頭から鯛焼を食ふ〉も滑稽。悪党と言えば鯛焼も観念している。

 【人】

うらうらや植物標本七種類松山  松浦麗久

 「うらうら」は「麗らか」の傍題で春の句であるが、人日(1月7日)に食す七草がゆを少し連想させる。本来食べるために採取した植物であれば、標本七種類と見立てた所に滑稽味が出る。同時作〈通天閣のてっぺん白し冬銀河〉は中七までのベタな詠みぶりが演出となり、大阪上空の冬銀河がより澄んで見える。

 【入選】

寒暁や前屈ゆつくりと解けて松山大  脇坂拓海

牡丹雪二次関数を解くやうに松山東高  吉田真文

蛇穴を出づ静脈の目立つ腕松山   川又夕

ふくろうがさらったものは何でしょう同   みなつ

田楽や正しきことは時に変広島  須賀風車

日進月歩立春吉日塩胡椒松野  川嶋健佑

痴話喧嘩にあなたの口魚かな同 高橋あゆみ

教官と「後方ヨシ」と春風とKTC松山  坂本梨帆

早春の日溜まり集めたるランナー松山西中等   岡崎唯

テニスコートの桜記憶に根付く

松山東高 高岡純一郎

芭蕉旗魚の吻に右利き左利き長崎大  塩谷人秀

 【嵐を呼ぶ一句】

春寒の深夜「躾」を辞書で引く松山   コサト

 時事俳句。辞書の紙が指の腹に吸い付くとき、春寒の冷たさと湿度を感じさせる。「躾」の範囲の自問自答に緊張感がある。コサトさんの表現は、まだ少し生硬さが残るが、詠みたい事が定まっている。

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