朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2019.01.18

【青嵐俳談】神野紗希選 

 言葉の美、現代風景、平凡な日常、季語の追求…。各作家の美意識、つまり何を詠みたいかがくっきりしている作品は、よりまっすぐに人の心を射抜く。

 【天】

開けはなつべからず春の夢は窓愛光高 kondoh

向かうから戸を開け女礼者かな愛光高 kondoh

遠目にはあさぎの海の茅花かな愛光高 kondoh

 甘美な短編小説めく3句。1句目、春の夢=窓と見立てた。「べからず」の禁忌が甘やか。窓に鍵せず開け放てば、夢は現実を侵し無限に広がるだろう。2句目、女性の年賀客を女礼者という。物腰やわらかながら静かに押し入る笑みは、不気味に美しい。3句目、河口にて茅花ごしに見やる海は、穏やかな浅黄色。近づけばまた違う色、違う深さが迫るのだろう。「遠目には」の限定が、見えない風景の奥行きを思わせる。

 【地】

乳房の陰影豊か帰り花松山大 板尾奈々美

あなたとは明るい秘密みかん剝く松山大 板尾奈々美

冬晴れや要らないものはよく燃えて 松山大 板尾奈々美

 1句目、裸婦デッサンめく絵画的美。帰り花の微光が陰影を深める。2句目、「明るい秘密」という詩語の連想力。3句目、燃やすのは就活の資料? 過去の恋文? よく燃えるものは要らないものだと断じ、あきらめようとしているのかも。ひそやかで繊細な3句。ひんやりした自我が見つめた、世界の精度の高さがある。

 【人】

クレープの紙も齧って冬の昼済美平成    まを

 小さな失敗をさりげなく句にすくった。クレープの甘さが、冬の昼の味気無さの中で、アクセントに。

 【入選】

信号の赤の眩しき冬至かな松山西中等    訛弟

マドラーと雨とピアスと十二月愛媛大  小泉柚乃

なにもだれも死にませんよう山眠る中央大   磨湧

寮生に海知らぬ者大晦日北海道 三島ちとせ

子の椀にふりかけをふる朝の雪京都  青海也緒

ほろほろと雨滑らせる毛皮かな松山   川又夕

画用紙の白に生まるる雪女松山東高   武田歩

錆びかかっているマンホールの椿松山   みなつ

凍て川の青鷺のみ聞く大っ嫌い愛光高    甘煮

黒板に残る落書き神の留守伯方高  塩見将門

冬萌や巨軀に小さき居合刀長崎大  塩谷人秀

厳冬や魔術師をやっつける回広島  須賀風車

目のピント奥へ絞れば枇杷の花松山  松浦麗久

宇治十帖足跡隠す落ち葉かな松山東高  山内那南

 【嵐を呼ぶ一句】

晩餐の骨数え合ふクリスマス沖縄 センター前山田

 鳥の骨か。キリスト誕生のクリスマスに死を配合する挑戦は〈犬の屍を犬がはこびてクリスマス 寺山修司〉をほうふつとさせるが、路傍ではなく晩餐の中心に死を見たのがビビッドだ。センター試験、ファイト!

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