公開日:2018.11.30
【青嵐俳談】神野紗希選
〈夏祭り孤独な心は半月や グエンレ・ホアンミン〉おのれの半身を失った月に、自身の孤独を重ねました。自然に託して心を表すのは俳句の王道です。〈半月は孤独な心夏祭〉と語順を整理するとより印象的に。今回投稿してくれたグエンレさんは鈴鹿市の中学生。青嵐俳談は高校生(中学を卒業した4月)から投稿可能です。来年の春に、投稿お待ちしていますね!
【天】
おでん煮る君を素粒子とほりぬけ今治 有友勇人
日常卑近な冬の食「おでん」と、立派な科学用語「素粒子」とを大胆にぶつけた。宇宙から降り注ぐ素粒子が、台所に立つ君の体を通り抜け、おでんの鍋を通り抜け、地球を通り抜けてゆく。素粒子を想像すると、君がきらきら透けはじめ、宇宙のかけらのように思えてくる。日常=奇跡、という特別感が高まる句。
【地】
ネクタイの真ん中にゐる梟よ松山大 脇坂拓海
西洋では、梟は知恵の象徴。ネクタイの真ん中に居座る梟は〈目つむりてゐても吾を統ぶ五月の鷹 寺山修司〉のように、本体である人間をしたがえているかも。個性の消えやすいスーツ姿なら、なおさら。
【人】
空っぽの巣箱降ろせし夕月夜松山西中等 訛弟
冬に入るパズルに股がりし目玉済美平成 まを
訛弟さんの句、春には鳥が子育てした巣箱か。みんなが忘れた後も存在し続けるものにスポットを当て、世界の片隅を描いた尊さ。夕月夜が寂しくも優しい。まをさんの句、何かの目玉がパズルのピースとピースにまたがって描かれているので、バラバラにすると目玉も分裂するのだろう。冬を迎える心の荒涼。2人とも着眼がいい。俳句は素材選びでだいたい決まる。
【入選】
竜胆の抱きしめている未来かな松山東高 武田歩
二番より忘るる歌詞や山眠る松山 川又 夕
竜淵に潜みて街のすこし揺れる洛南高 細村星一郎
冬空の影にがっつりある寝癖松野 川嶋健佑
笛の音に街の目覚める文化の日大洲高 岡田真巳
寒がりの蜜柑ごめんと言つて剝く京都 青海也緒
接眼レンズの片隅に秋思伯方高 村上れあ
サーカスのテント畳んで虎落笛松山 稀
バンパーに残る感触月氷る今治 立志
水鳥や鏡に映る嘴の先松山 松浦麗久
山間に調律師くる文化の日松山東高 山内那南
絵具溶くように着ぶくれている松山 若狭昭宏
【嵐を呼ぶ一句】
小春日に洗った靴を履き小春高知大 若下優帆
前回の小春日に洗った靴を、また小春となった今日履いて出かけた。上下で小春を繰り返し、別々の日の小春を繋いだのがユニークだ。リフレインで、あたたかい11月を喜ぶ気持ちが、じんわり湧いてくる。