朱欒 しゅらん朱欒 しゅらん

青嵐俳談

公開日:2018.11.23

【青嵐俳談】森川大和選

 何人かで2次会のバーに座ったある夜、「青嵐俳談」の相棒である神野紗希さんが、アニメの「エヴァンゲリオン」がヒットしたのは、主人公の碇シンジ君が深く悩みながらも周囲の人間に支えられ活躍する姿が、現代の「草食系」の心性に適合したからだという社会学的考察を語っていた。格調高い骨太の俳句ではなく、待って引き込む「草食系俳句」がはやるのも、その所以(ゆえん)。はっきりしないアタリをつついていたら、そのうち本音や本性が出てきそうなアタリが魅力。

 【天】

あの山は未払いのまま雪の降る松山大  脇坂拓海

 「未払い」を詠むアタリが草食系。そうと知らされて、少し胸騒ぎのする作中主体の動揺が「まま」の表現から伝わってくる。句の最後に美しく「雪」を見せながらも、句の読了感に胸騒ぎが残る。「雪」の既成の風情を揺さぶり、剝落させる挑戦がある。

 【地】

大花野ところどころを森が食む大阪    大学

 「森」に納得。「花野」とはスケールの違う「森」が来るから、結べない景を結ぼうと想像が変幻する。中七が草食系の味。同時作〈月面に顔ある心地寝冷えせり〉の「心地」の婉曲(えんきょく)、〈寒月の果てに住宅集合す〉の「果てに」の距離の回収にも、草食系の技が光る。

 【人】

チョーク持つごとく茸を摘みけり済美平成まを

店先のクマに冬眠中の札松山  若狭昭宏

 前者は「つまみ」ながら摘んだのだろう。目の効いた良さがある。そのまま板書でもきそうな発想が面白い。後者は現場の発見が効いている。「クマ」の表記も良い。そのカワイサに着眼したアタリが草食系。

 【入選】

滴りや天のしるしを受けた後伯方高  馬越理子

子の寝息リロード繰り返す寒夜京都  青海也緒

密偵の囁く冬の日の暗号今治  有友勇人

啄木鳥や問いの空欄埋めてゆけKTC松山 坂本梨帆

秋天に声がとられていくやうな松山西中等訛弟

ぬけきつた雲のつづきの天の川愛媛大    ベガ

二科展のここに高まる放屁の欲東京外大   中矢温

秋晴やゾウの鼻ほど無防備に松山東高   武田歩

白桃の水が色素を作り出す同  吉田真文

秋果剝くナイフ主役の洗浄機同  小野芽生

菊日和たこ焼きパーティでもするか高知大 若下優帆

ストロング缶直飲みし月清かなり松山    大助

十年を着ぶくれてみて別の人同   川又夕

下校路の木犀の香と触れる肩新居浜西高  星加萌愛

 【嵐を呼ぶ一句】

なんとなくヨドバシのある暮秋かな松野  川嶋健佑

 秋葉原や梅田駅前のヨドバシカメラは結構な存在感だ。それを「なんとなく」認識するのは、その街の利用者ゆえだろう。そしてそう詠むのが草食系。

最新の青嵐俳談